作業に必要な時間(人時)は、「やるべき作業の量÷作業単位当たり所要時間」で割り出すことができる。
旅館には毎日繰り返される作業が非常に多い。そして一般に「作業量」(=やるべきことの物量)は、その日のお客さまへ対応する必要性から自ずと決まっているが、毎日少しずつ異なる。一方、「単位当たり所要時間」についてはほとんど基準がない。
このため、全体としての作業所要人時が見積もられることもなく、人の割り付けは「だいたいこれくらい」と勘に頼って行われる。
その結果、どういうことが起きるか…。
人員が余剰気味の場合、必要以上にのんびりしたペースで作業が行われたり、業務時間の中にアイドルタイムが生まれて「ぶらぶらタイム」や「おしゃべりタイム」になっていたりする。またその逆の場合は、「間に合わない」事態が生じて業務に支障をきたしたり、大幅な深夜残業につながったりする。
ただしどちらかと言うと後者のようなケースは稀である。長い経験から、人手不足による切迫の事態だけは避けようとする本能が働くので、多くの場合、問題を生じないように、あらかじめ十分な人員(人時)が割り付けられるからだ。
また社員(パート・アルバイトを含む)にはそれぞれ生活があり、彼ら一人ひとりにとって、収入や働くリズムは大事なことである。会社の都合で「必要な時間だけいてくれればよい」というわけにはなかなかいかない。いきおい、人員は余剰の側に向かう。これも現実問題としての大きな要因であろう。この問題の解決方向は、一口に言えば「マルチタスク化」にあると考えるが、これについては追って述べることとしたい。
さて、そのようなわけで、人員態勢は常に「割付人員>所要人員」の関係にあると言える。サービス業はその瞬間瞬間が商品であり、品質に直結している。「間に合わない」といった事態は許されないので、この関係を保つことは正しい。しかし目を向けたいのはその「差」の大きさである。この差をできるだけ小さくすることが労務効率を適正に保つ重要なカギとなる。
適切な人員・適切な時間で作業を行うには、どの程度が適切なのかを知る必要がある。その出発点は、まず作業に要する時間を計ってみることだ。これが合理的な人員割付の根拠となる。ところが、旅館で作業時間を計るといったことに取り組まれている例は、まずほとんど見られない。
ひとつには面倒だからであり、またそれをしたからといって作業時間が大して変わるわけでもない、と思われているせいかもしれない。が、そうではない。この理由については次回述べる。
もうひとつ、作業を時間で管理することが、ともすれば「労働強化」とか「管理締め付け」といった負のイメージにつながることから、踏み込むことがタブー視されている可能性も考えられる。しかしこれも、生産性向上の大義が「社員の生活の向上」であるならば、何ら躊躇すべきことではない。
(株式会社リョケン代表取締役社長)